PBW(過去ログの一部になりきり要素注意)やその時ハマっているものの日記やら落描きやら。
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プロフィール

縁代まと@泰

Author:縁代まと@泰
ひっそりと生きている文章書き兼絵描きなオタク。
褐色肌スキーです。

PBWをメインにMMOやブラウザゲーム等を渡り歩いてます。
所持キャラ数は大体平均より多いので、それに苦手意識のある方はご注意ください。

▼memo▼
PBW:発言率は不均等
マビノギ:元トリアナ、マリー
ガンオン:全鯖&軍に所属。メインは1鯖ジオン
艦これ:まったりと提督業
トリネシア:名前は頭文字タ&ダ縛り
マイクラ:バニラだったりスキン変更していたり
pixiv:先行投稿はあっちだったりこっちだったり

コメント歓迎ですヾ(・ω・)ノ


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【EB】SS「乾いた地の余りもの」
あんな落描きの後で何ですが、レネの過去話SSです。
キャラのSSは久しぶりだー…!

ちょっとだけ長めなのでお気をつけください。


■注意書き
・一部流血表現があります
・1万文字程度です
・公式設定と矛盾するものがあった場合、
 アンオフィだと思ってやってください(´・ω・`)



=====================================


 レネジェク。
 生まれた時はその名で呼ばれていた。

 ここは夏がとても暑く、他の季節も一定の気温から下ることが滅多にない。
 この土地で生まれ育ったレネにとっては当たり前の気候だったが、元々別の地に居た母はまだ慣れていないようで、真夏はよく辛そうにしていた。
「10年以上も経つのにね……汗の量も皆と段違いだよ」
 レネが11歳になった年、軽い熱中症で休息を余儀なくされた母親が苦々しげにそう言った。
 タオルを絞っていたレネは声をかけながらそれを母親の額にのせる。
「仕方ないって。それに他にも暑いのが苦手な人は居るよ」
 少数ではあるが、あえてそれには言及しない。
「もうすぐ水豊祭だし頑張ろう」
 励ましの言葉をかけ、レネは狩猟道具の手入れをしに外へと出た。
 水豊祭(すいほうさい)とはレネの部族が毎年行う祭りの一種で、この日だけは貴重な水を惜しみなく使って皆を労うことになっている。打ち水により道は季節にそぐわない湿り気を帯び、水をどれだけ飲んでも叱られず、集落の中央には水をなみなみと溜めたプール状の施設が現れ、そこで遊泳することも可能だ。
 水に関する事柄で苦労することの多いレネ達にとって、この祭りは年を越す時と同じくらい楽しみだった。
 木にもたれかかり、木陰で斧の柄に滑り止めの縄を巻いていたレネは我が家の方を見る。
 ここに住む部族は黒髪に黒い目、褐色の肌が特徴だが、外から嫁いできた母親は青紫色の髪に青い目、明るい肌の色と正反対の外見をしていた。それは息子であるレネも同じことで、彼は部族の特徴を肌にしか受け継いでいない。
(受け入れてくれている人が大半だけれど、母さんが倒れても誰も様子を見にきてくれない……)
 レネは幼い顔に複雑な気持ちを浮かべる。
 それにレネはわかっていた。その受け入れている者達も、受け入れざるを得ないからだと。
 母親の夫、つまりレネの父親はここの族長なのだ。
(……いつか皆が本当に受け入れてくれるまで、母さんは俺が守らないと)
 これが終わったら何か水分の多い果物でも探そう、とレネは縄を巻く手に一層強く力を入れた。

 レネの部族は馬を操り狩りをする。
 自らの足でそれを行う者も居り、レネもあと2年もすれば狩り手になる予定だ。
 今は馬の乗り方を練習していた。本来小さな頃から馬には慣れ親しんでいるため、レネくらいの年になるとほとんどの子供が自分の手足のように馬を操るのだが、レネにはその手の才能が欠如していたらしい。
「うぶっ!」
 顔面から地面に落ちるのは今日何度目のことだろう。
 最初は見守っていたレネの父親も途中で眉間を押さえてどこかへ行ってしまった。
「坊ちゃん、そりゃ馬の耳を引っ張っちゃ落とされますよ」
「だ、だってずり落ちそうになったから……うわ、っとっと!」
 馬から蹴りの追撃を受けそうになり、レネは慌ててその場から離れる。
 そこで初めて父親が居ないことに気がついて眉をハの字にするも、気を取り直して汚れた服を叩く。
 指導役は40代の男性で、若い頃から父親の傍で雑用をこなしていたのだという。本来この指導という役割はもっと若い者が行い、その間に年配者が集会を開いたり狩りに出たりするのだが、今は人手不足のため若い者を回せないのだ。
 これに関しては父親も頭を悩ませている。
 なぜか若者の多くがこの土地を離れていくのである。それも何の前触れもなく。
 ――それはエンドブレイカーの力を受け継ぐ一族ゆえの問題だったが、父親の世代の前後はエンドブレイカーの力に目覚める者が少なく、そのためこの現象が奇異に感じられ、集落に言い表しにくい不安感をもたらしていた。
 若者がこの地を見捨てる。
 今ここで権力を持つ年齢の者達はそう感じていた。
「仕方ありませんねぇ。コイツも疲れてるようですし、坊ちゃんも休憩を入れてください」
 馬を撫でて宥めつつ、指導役はレネにそう言った。
 続けて「あっ」と手を叩く。
「そういえば水豊祭に使う水瓶を運んでました。休憩じゃなくて今日はこれまでにして、運ぶのを手伝ってやってくれませんか?」
「でも早く乗れるようにならないと父さんが……」
 言いかけ、レネは言葉を飲み込む。
 指導役はレネから馬を離したいのだ。宥めるのにも苦労するし、何度も失敗しては馬の方の自信が無くなる。
「わかった。それじゃあ行ってくる」
 情けなさから逃げるような気分になりつつ、レネはその場を後にした。

「レネジェク?」
 水瓶を運んでいると声をかけられた。
 父親に似ているが、違う声。父親の弟である叔父だ。
「馬の練習はどうした」
「あ……その。今日はもういいからこれを手伝えって」
 叔父の視線が水瓶を捉える。
「そうか、もう水豊祭か」
 特に追求されることもなく、叔父の話題は祭りに移った。
 しかしそれも興味深い話題ではなかったらしく、すぐに別の話を切り出した。
「そういえば母さんの様子はどうだ、倒れたと聞いたが」
「もう大分マシだよ、熱も引いたし。あとでお見舞いにでも……」
「だめだ」
 やはり叔父も見舞いには来てくれないのか、とレネは口の端を下げる。
 それを見た叔父が慌てて付け足した。
「兄に怒られる」
「え?」
「……そんなことは、まあ、別にいいだろう。無事ならよかった。それより早く持っていかなくていいのか?」
 はっとし、レネは水瓶を急いで目的地まで持って行った。
 叔父にとって話しにくい事柄だったのかなと思いつつ、思わず呟く。
「自分から呼び止めたくせに……」
 声色には幼さが表れていた。


 そんな不機嫌になった記憶も薄れてきた頃、祭りを明日に控えたレネは上機嫌だった。
 去年は勢い余って風邪を引くくらい祭りを堪能した。今年はどうして楽しんでやろうと考えを巡らせることで、普段の悩みや不満は払拭されていった。
「母さんも一緒に泳いでくれないかなぁ……さすがに無理か」
 小さい子供なら親子で泳ぐこともある。が、レネにはそんな記憶は無い。
 それでも、少しの希望を込めて訊いてみようとレネは裁縫をしている母親に近づいた。
「ねえ母さん、今年――」
 母親が振り返った瞬間。
 自分と同じ青色の目に、レネは恐ろしいものを見た。
「レネジェク……どうしたの」
 言いかけたまま言葉を継がないレネに母親は首を傾げる。それと同時にその恐ろしいものは霧のように掻き消えた。
 レネは熱のこもった息を吐き、もう一度息を吸いなおしてから言う。
「ご、ごめん、何を言おうとしてたか忘れちゃった」

 その言葉に母親は笑った。
 だが、笑顔を見ても安心感は訪れなかった。
 夜中、毛布を被ったレネは下ってこない瞼ごと目を両手で覆う。そうしないとまた恐ろしいものを見てしまう気がしたのだ。
(……本当に起こることだっていうのは分かる)
 見たものを思い返しながら、レネはのろのろと思考した。
(分かるからこそ怖い……)
 理解出来るものに対して嘘だと思うことは出来ない。出来たとしても偽りだ。
 そこから先は上手く考えられなかった。
 とても、とても、恐ろしい。
(それでも、母さんは俺が守らなきゃ)
 思考は放棄しても、結論だけはとうの昔に出ていた。

 母親を守る。
 ――水の豊かな日に殺しに来る、顔の分からない叔父の手から。


  ***


 その映像の中に自分は居なかった。
 ならば、もし自分がそこに居たならば母親を助ける道もあったのではないか、とレネは思った。
 普段ならば専用の部屋に置いてある剣を持ち出し、レネはそれを家の中に隠す。それは綺麗に畳まれた布の下に柄から切っ先まですべて埋まった。布の上から押すと硬いものの感触が手に伝わったが、今日一日を何事もなく乗り切れたならば明日には元の場所に戻っているものだ。誰かが触ったりしない限りは大丈夫だろう。
「……よし」
 念のため、懐の内ポケットにも短刀を忍ばせておく。
(叔父さんが来たら俺が母さんを守るんだ。叔父さんが持っていたのは包丁だった。長剣なら俺の方が有利なはず……きっと叔父さんもそう思う)
 もしそうならなくとも、刃物を持った子供という危なっかしい存在に少しでも怯んでくれればそれでいい。
 叔父が刃物を持って家に押し入っている、という事実が必要なのだ。
 何も起こっていない状態では集落の者はレネの言葉を信じないだろう。それは被害者になるであろう母親も同じことで、朝にどこか別の所へ行くように言っても用事があるからと断られた。
 無理やりにでも安全な場所へ閉じ込めることは出来たかもしれないが、それでは今後また叔父が襲ってくるかもしれないという不安がずっと残ってしまう。
 母親は家事を終えてから祭りに出向く予定で、今は朝食を作っている。
 叔父がここへ来る時間、人の多い祭りに出向いてもらうことも考えたが、レネが母親を見失う危険性もあるため避けた。
(いや、見失って母さんが危険になることより、俺の視界に母さんが入らないことが怖い……のかな)
 釜を火にかける母親の後姿を見遣る。
 正確な時間は分からないが、映像では母親は台所には居なかった。外は暗くなかったことから、きっと今から祭りに出向くまでの間に叔父は来るのだろう。
 緊張から喉が渇き、唾を飲み込んでからレネは母親に問い掛けた。
 少しでも落ち着きを得たかったのだ。
「母さん、さっきから何を作ってるの?」
 母親は笑う。
「あんたの朝ご飯。私はさっきパンを齧ったからね」
「そっか、あり、が……とう……」
 引っ掛かりを感じた。
 感じた瞬間、その正体に気付いたが――遅かった。
 生暖かい風が背中側から吹き、家の戸が開けられたことを知らせる。
 出入り口から奥の部屋以外を一望出来る作りをしているため、来訪者の目にはきっとすぐにレネと母親の姿が映ったはずだ。
「……!!」
 母親はレネの朝ご飯を作っていると言った。
 つまり、もしレネが去年と同じように朝から祭りに出向いていたならば、母親は別のことをしていたのだ。
 自分で判断を鈍らせてしまった、とレネはふらつくような動作で振り返る。
「あら、お久しぶりです。あの人に用事ですか?」
 元からそちらを向いていた母親は穏やかな声でそう聞いた。
 黒い男が目に入る。
 後ろで束ねられた黒い髪。少し大きな耳。痩せているが長身な体と、褐色の肌。どれを見ても叔父だというのに、レネは戦慄しか覚えない。
 映像で見た通りだった。
 叔父の顔上半分は異様な仮面で隠れている。
 しかし母親はそんなことに気付く様子も無く、ごく普通の様子で叔父の返答を待っていた。
 レネは布に手を突っ込み、先ほど隠したばかりの剣の柄を握った。
 ついさっきまで干されていた布は陽光を浴びて熱を内包しており、柄は一瞬前まで誰かが握っていたかのような生温さを帯びている。
 首を傾げる母親の前で叔父は腰紐に挟んで背中側に隠していた包丁を取り出した。
「っ……!?」
 やっとただ事ではないという雰囲気を感じ取り、母親が一歩引く。
 レネの我慢もここまでが限界だった。
 もう十分「叔父がこちらに危害を加えようとした」という事実が出来た、と自分に言い聞かせる。理性はまだ足りないと叫んでいたが、急く気持ちはそれを無視するのに十分だった。
「母さん下って!!」
 剣を布から抜き取り、母親と叔父の間に割って入る。
 母親はよろけて壁に手をつき、叔父は――まったく怯んでいない。
 レネは剣を構えてじっと目を……仮面を見る。
 釣り上がった亀裂のような目と、丸いフォルム。それには周りとは異質の雰囲気が漂っていた。
 叔父は少しだけ見える口を半開きにし、その場から前へと走り出す。背は高いが戦いに向いた体ではないと子供ながらレネも思っていたが、叔父の動きには無駄というものが見受けられなかった。
「止まって! こっちへ来るな!」
 自分達に叔父が近づくことを避けたくて、レネは意味がないと分かっていながらも叫ぶ。
 叔父はそんなレネには目もくれず、ただ邪魔だと言うように包丁の柄でレネの横っ面を強く叩いた。
(なんで、刺さなかったんだ……!?)
 まだ理性が残っているとでもいうのだろうか。
 しかしすぐに分かった。母親には躊躇いも無く刃を向ける叔父。叔父はこの刃で最初に母親を刺したいのだ。そのために子供の血で刃を濁らせる気はないらしい。
 床に倒れながらも両手をついたレネは無理な体勢のまま足を叔父に向かって伸ばす。
 足首に痛みと衝撃が走る。レネの足に躓いた叔父は、そのまま彼を蹴飛ばすように転倒した。だが伸ばした片手が母親の肩を全力で押す。

 ごつ、

 という音をさせ、母親は頭を竈に打ち付けた。
 悲鳴すら出さず、母親の意識が飛んだことをレネは感じ取る。
「――ッの!」
 よろけながら立ち上がり、叔父が体を起こすより先に剣を構えたまま突進する。
 だが刃に対する恐怖心が無いのか、叔父は何の感情も見せずに片手を横に振る。それはレネの手首に命中し、痺れが指先に走ったと同時に剣を弾き飛ばした。
 ガランガランと音をさせて転がる剣を横目に、叔父は倒れた母親へ近づこうとする。
(殺される……!)
 自分ではなく、母親が。
 守ろうと誓った母親が。
(……殺される?)
 唯一の、本当の味方だった、母親が。
 心のどこかでかかっていたストッパーが弾けた。
 体ごと叔父に突っ込む。肘で腹を打たれ息が詰まった。それでも叔父の袖を掴み、思い切り引く。袖は引き千切れ、叔父はたたらを踏む。
 握った拳で顔面を殴られた。
 飛んだ血が仮面に付き、縁に沿って下へと垂れる。
 ぐらぐらとした視界の中、それでも前に進むとレネは叔父の腹に手を回してその場に踏ん張った。
 しかしこのままでは振りほどかれるのも時間の問題だ。
 大声を出せば誰か来てくれるだろうか。
 祭りで一番賑わうのは中央広場だ。道へと打ち水も既に終わっている。この家の周辺に誰が何人居るのか見当もつかない。
 だがそれは今のレネにとって考える余裕のあることではなかった。
 冷静に考えれば前述の不安があったとしても誰かを呼び、助けを求めるのが最良の手段だっただろう。
 しかし、レネは11歳だった。
 まだ子供であることを避けられない年齢だった。
 興奮と焦りに支配された頭は最善とは言い難い思考ばかりを巡らせ、取る行動はとても単純な力押しばかり。体ごと突っ込み、引き止め、しがみつく。それだけ。
「止まれよ……止まれよ! 母さんに近づくなッ!!」
 上を見た瞬間、仮面の向こうにある叔父の目と視線が合った気がした。
 しかしレネを見ていない。
 見ていない、と強く感じた。
 もう止められないという感覚が頭の先から沁み込む。
 無意識に懐の固い感触を確かめ、それを意識を保つ拠り所にしながら引き抜く。そして気がつくとその刃は見えなくなっていた。
「……」
 ゆっくりと、再度見上げると叔父はレネを見ていた。今度こそしっかりと。
 そして初めて口から言葉を紡いだ。
「なぜ、邪魔をする?」
 問いを発した瞬間、叔父は何かを理解したのか小さく笑った。
「そうか……そうか、当たり前、だな……」
「叔父さん」
 ぼろぼろと崩れる仮面と共に、思っていたよりも温かくない血液が床に広がる。
 叔父は小さく痙攣する手をレネの頭に乗せ、もう片方の手で自身の腹部を撫でた。そこには無骨な短刀が深々と刺さり、柄を血に染めている。
 頭の上の大きな手を感じ、レネは思い出す。
 父に撫でられた覚えはない。
 しかし叔父は初めて会った時に撫でてくれた。
 それは母親と同じ色の髪に何か思うところがあったのかもしれない。
 稀に向けられる視線。さり気ない、小さな小さな気遣い。まさかと思っていたことを、半ば放心しながらレネは問う。
「……母さんを、好きだったの?」
 返答は無かった。
 何分待っても無かった。


  ***


「祭りで料理を振る舞いたいから料理について聞きに行くんだと言っていたよ」
「……では、やはり」
 夢を見ているような感覚から目を醒ますと、大勢の視線を感じた。
 少し体を動かすと激痛が走った。足首はまだいいが、頬がとても痛む。鼻血は拭かれていないようだった。
 それにしても体の自由が利かなすぎる、と重い瞼を開けると、両手ごと縄で幾重にも拘束されていた。
 瞼が腫れているせいか視界が悪いが、それは確かだ。
「……?」
 なぜだろう、とぼんやりと思っていると、大人の一人がレネに近づいてきた。
「レネジェク」
 大人の一人……いや、父親だ。
「なぜ剣を持ち出した」
 顔が見えない。
 また仮面かと身構えたが、それは逆光によるものだった。
 辛うじて見える口元は叔父によく似ている。
 その口が動いて言った。
「……レネジェク」
「父さ……」
「私は、今はお前を息子とは思えんよ」
 思わず目を見開くと、また痛みが走った。
 そしてやっと記憶と意識がはっきりする。
 そう、父親はついさっき弟を殺されたのだ。
「……後でまた来る。それまでに答えを用意しておけ」
 背中を向ける父親にレネは声をかけた。
「か、母さんは?」
 父親は足を止め、しばらく何かを言いかけてはやめるのを繰り返し、堪えるように普段より少し高い声で答える。
 まだ起きていない、と。

 他の大人達も引き上げ、レネは一人になった。
 見回してみるとここは自分の家ではないらしい。窓はあるが閉まっていた。
 静かな時の中、ひとつひとつ考えや記憶を整理する。
(そうか……俺は叔父さんを殺したんだ)
 そして理由があったとしても、それは常人が理解してくれるものではなかった。
 周りから見ればレネは剣を勝手に持ち出し、訪ねてきた叔父を襲い、何らかの理由で母親を転倒させたことになる。
 叔父は母親を殺すという衝動に支配されていた頃に、理性ある者を装って偽の理由を知り合いに伝えていた。
 何も思考せずに動いているように見えたが、そうではなかったのだ。
(きっと信じてくれない、よな)
 これから先のことを思うと心臓が縮み上がった。
 母親がもし無事に目覚めたとしても、きっと今まで以上に肩身の狭い思いをさせるだろう。
 いや、もしかしたら住む場所すら奪ってしまうかもしれない。
 父親は答えを用意しておけと言ったが、既に何時間も前からそこにある答えは日の目を見ない。見せられない。
「……」
 どうすればいいのか分からず、レネは困惑した。
 倦怠感に身を任せ、目を閉じて「このまま目が覚めませんように」と弱気な心で願う。


 しかしいやでも目覚めはやって来る。
 外の血が入ったレネをよく思わない者は多い。その者達が声高らかに死刑を推す中、どうやら処遇が決まったらしい。
 理由を答えられなかったレネは立場を回復させることが出来ず、また母親もまだ目覚めておらず証言を得られなかったため、状況証拠だけで皆は判断を下した。
「追放だ」
 父親は短く言った。
 馬を一頭だけ与え、ほんの少しの食べ物を積んで集落から追い出すのだ。
 甘い、という声が上がったが、子供ということを考慮されたものだった。しかし怪我を負った子供にとっては死刑も同然ではないか、という数少ない声もある。
 レネは虚ろな目で父親を見た。
「俺を殺さないの?」
 問うつもりはなかったが、気の抜けきった口は言葉を止める気力も無かったようだ。
 父親は――酷い表情をしていた。
 答えず、足の縄だけ解いてレネを馬小屋へと連れて行く。
 馬小屋には一頭の老いた馬に荷物が吊られていた。馬だけは穏やかな目でレネを見ている。
 その馬とレネを連れ、父親は腰に剣を垂らして集落を出た。少し離れた所まで行き、そこで手の縄も解いてレネを追放するらしい。
 父親はその役割が嫌で嫌でたまらないようだったが、族長が担う役割らしく、なんとか最後までやりきった。
「……」
 馬の背に跨る。
 今までの若い馬のように嫌がらなかった。
 初めからこういう大人しい馬で練習させてくれればよかったのに、と場違いなことを思う。
「レネジェク。もうここには近寄るな」
 父親が静かに言った。
「私はお前を庇うことは出来ない。ずっと押し止めていた皆の感情をお前が溢れさせてしまったからだ。そして……あいつのことも、ある」
 叔父のことだろう。
 しかしレネは別のことが気になった。
「押し止めて、いた?」
「今は」
 表情を隠すように首に下げていたゴーグルをかけ、父親は搾り出すように言う。
 最後だからこそ言おうといった口調だった。
「今は、お前を我が子だと心から思うことが難しい。しかしそれまではお前は私の息子だった。そういう、ことだ」
 父親は馬の尻を叩く。
「……行け! 行ってもうここへ戻るな!!」
 聞き慣れた声が後ろへ遠ざかる。
 レネは振り返ることが出来なかった。
 血とは違う熱いものが両目から溢れ、鼻をすすってもまだ呼吸が上手く出来ない。

 母親を守れたかどうかさえ分からぬまま、こうしてレネは生まれ故郷を後にした。


  ***


 父親の言いつけを守らず、再びこの地を訪れたのは今から10年前――19歳になった頃のことだった。
 あの時怪我により衰弱し、故郷から遠く離れた地で倒れたレネは馬を自然に帰すとその場で目を瞑った。
 そのまま意識を回復させることもないと思っていたが、近くに住む老夫婦に助けられ、命を繋ぐことが出来たのだ。
 そこで暮らそうかとも思ったが、老夫婦が亡くなるとレネは旅に出た。
 旅先では色んなことを知った。エンドブレイカーのこと、敵であるマスカレイドのこと、そして同志が沢山居ること。
 それらが一段落した頃、レネはどうしても確認したくてここへ戻ってきたのだ。
 母親はどうなったのだろうか、と。
「変わってねェな……」
 目元以外は長い布で隠し、旅人を装って集落へと入る。
 食料を分けてくれないか、と近に居た男に聞くと、買うなら売ろうと言われた。レネの正体には気付いていないらしい。
 買った干し肉を鞄に押し込み、レネは辺りを見回した。たしか家は向かいの道の奥だったはずだ。
 見咎められたら道に迷ったふりをしようと思いつつ、土の階段を上ってゆく。
 見えてきた家の外には洗濯物が干されていた。
(人は居る、か)
 近寄って裏を見てみる。誰も居ない。どうやら留守のようだ。
 長くは留まれないな、とレネは来た道を引き返そうとして――止まった。
 40代と思しき女性が子供の手を引いてこちらへ向かってくる。女性の髪は綺麗な青紫色をしていた。
 子供は黒い髪をしていたが、瞳は女性と同じ色をしている。女性に笑顔で何かを話し聞かせている様子だ。
 思わずレネは家の陰に隠れた。
「それでね、兎を三羽も仕留めたんだよ!」
「そう、凄いわね。今夜は兎鍋かしら」
 やったー!っと子供の明るい声が聞こえてくる。
「レネジェクは本当に兎鍋が好きね」
 穏やかな声は8年前と全く変わっていなかった。
 その声で名前を呼ばれてレネはぎょっとしたが、すぐに理解する。
 母親と父親は、あれから新たな……何も汚れていない「レネジェク」を手に入れたのだ。
 そして前のレネジェクとは過ごせなかった日々を送っている。
 自ら手放したものの後を継ぐ者が居ると知って、そして母親がちゃんと生きていると知って、ふと湧き上がってきた感情が心を掻き乱した。しかしその正体が分からず、レネは気がつくと家を後にしていた。
(でも、よかった……生きていた)
 複雑な思いを打ち消すように安堵のため息をつく。
 足を早めつつ、レネはそっと後ろを振り返った。
「……!」
 家に入ろうとしていた母親の青い瞳と目が合う。
 思わず何か声をかけたくなり、それを抑え込むようにレネは小走りになった。ここを去ろう、と決心する。そしてもう帰ることなどせず、自分も自由に生きるのだ。
(そうだ、その前に)
 急ぎながら集落の外側へと回り、少し開けた場所を目指す。
 墓地だ。
 族長に近しい者が眠る場所は知っていたため、それを見つけるのは容易いことだった。
「……何も供えられなくて、ごめん」
 茶色い石には叔父の名前が彫られている。
 もし何か供えるものがあったとしても、レネの立場的に冥福を祈ることなど出来はしないのだが、謝らずにはいられなかった。
 これが最初で最後の墓参りになるだろう。
 レネはそのまま外へ向かおうとして、そして呼び止められた。
「レネ、ジェク……?」
 振り返りはしない。
「レネジェクよね?」
 振り返れば今度こそ色々なものが崩れ落ちてしまう。
 何気ない動作にも細心の注意を払いつつ、レネは荷物を担ぎ直すと歩き始めた。
 そして小さな小さな声で背後の女性に向かって言う。
「あのレネジェクは、守ることの出来る強い奴かな」
 沈黙。
 その静かな一瞬の間にも、レネは足を進めていた。
 数秒経ってから微かな声が耳に届く。
「……えぇ」
「ははッ、そりゃァよかった。……本当に、よかった」
 今まで後ろを向いて生きてきたが、母親の肯定にレネはやっと前を向いて生きていける気がした。
 母親は続けて何か言いたい気持ちを必死で抑えているらしい。
 それはレネも同じことだったが、それでも足は止めなかった。

 墓地を出る。

 集落を出る。

 乾いた地を進み、繋いであった馬に乗る。

 馬は若かったが、嫌がる素振りは見せなかった。
 家々が遠ざかり、狩りの練習をしていた狩り場が遠ざかり、家族の思い出も遠ざかる。
「レネジェクっていう名前はあいつに譲ろう」
 風を切りながら自分に言い聞かせるように呟く。
「こんな俺にゃ余りもので十分だ。だから……」
 ――今日から「レネ」だけでいいかな。
 そんな呟きは風に乗り、他の誰の耳に届くこともなく空に向かって消えていった。



END
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【2011/02/07 Mon】 | エンドブレイカー! | コメント(0) | ↑PageTop

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